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鈴木平(元プロ野球選手)【後編】
カテゴリ: インタビュー

トワテック リサーチ

 

阪神大震災からの復興を期す被災者たちの悲願に応え、1996年の日本シリーズを制したオリックス・ブルーウェーブ。無類の勝負強さを見せたチームの原動力となっていたのは、完全無欠のセットアッパー鈴木平投手だった。

 

そんな鈴木は、現役を退いてから4年後の2006年、地元・静岡県磐田市に「タイラ治療院」を開業した。プロ野球選手時代に築いた名声とともに東京で洒落たクリニックをオープンさせる手もなかったわけではない。しかし鈴木は、敢えて地元での治療にこだわった。

 

 こども達には「野球の辞め時は自分で決めて欲しい」と話す鈴木氏。この考え方は自身が体験した野球界の過酷常識に関係している。

「話題になるような夢を求めるなら、ここじゃなくて都会でやりますよ。ボクは、野球をやっている子供たちを辞め時は自分で決められるようにしてあげたいんです。少なくともお医者さんに“野球はもうできないからサッカーやりなさい”なんて言われないようにね」

 

鈴木は自分の経験と重ね合わせるように、野球少年たちの現状に警鐘を鳴らした。

 

「ヒジが痛いと言っている小学生を試合で投げさせる意味が分からないですよ。ボクは、いつも子供たちに、“甲子園に行きたいの?プロに行きたいの?”って聞くんですが、ほとんどの子は甲子園に行きたいと言います。だったら高校の時にピークを持っていった方がいいんじゃないって。だからストップをかけちゃいます。小学生や中学生には」

 

治療家・鈴木平がが、このような思考に至ったのは、彼自身も経験した、過酷な常識が関係しているという。

 

「ボクが高校生の頃は、真夏の猛暑の中でも3連投、4連投は当たり前でしたよ。2006年に甲子園の決勝で楽天の田中(将大、当時駒大苫小牧)とハンカチ王子(斎藤祐樹、日本ハム、当時早稲田実業)が投げて、次の日の再試合も投げたっていうのをマスコミが絶賛したでしょ。意味が分からないですよ。なんで美談みたいにするのか分からない」

 

あんなことをやらせたら、潰れてしまう・・・。鈴木は高校生たちの未来を憂い、悲しげに表情をゆがめた。

 

 治療院に置かれた記念品の数々。写真右奥はソフトバンク時代の監督・王貞治のサイン。

好きで始めた野球を少しでも長く続けさせてあげたい。そんな思いが鈴木にはある。それとともに、自らが定めた目標地点でベストパフォーマンスを披露できるように選手を導くことが自分に課せられた使命だとも考えている。この考え方は現在では主流になりつつあり、元巨人のエース・桑田真澄氏もメディアを通して同様の意見を述べている。

 

「最近は、プロ野球OBクラブの野球教室にも参加しているのですが、OBたちが怒っているのは、指導者たちがグランドに降りて来ないことなんです。今本当に必要なのは、指導者講習ですよ」

 

鈴木は一向に改善されない少年野球の現状に対する失望を隠そうとしないが、自分の目が届く範囲での話になると、表情は一変した。

 

「この頃は近所の中学や高校に顔を出してアドバイスすると、“あの先生が言うなら、今は休め”なんていう感じになってきました」

 


開業から7年を経て、“行列のできる治療院”と化した感もある「タイラ治療院」ではあるが、実状はそんなに甘いものではないと鈴木は言う。

「元プロ野球選手と言っても、5年、10年すると来てくれないですよ。だから結局、最低限の技術がないとね」

 

 手技療法士になっても野球への熱い想いはかわらない。今でも治療の合間に野球少年のピッチングフォームにアドバイスを送っている。

真剣な表情で頷く鈴木は、今でも1ヵ月に1回、神戸での勉強会への出席を欠かさない。

 

そんな治療家・鈴木平が思い描く夢とは何か・・・。

 

「夢と言うほど、大それたものではないけど・・・」

 

照れくさそうにそう前置きした鈴木は、訥々と言葉を紡ぎ出した。

 

「磐田市の高校って、甲子園に出場したことないんですよ」

 

地元の学校を晴れ舞台に送り出す。その夢が小さいはずなど、ない。しかし鈴木は、少し角度の異なる切り口から夢について説明を加えた。

 

「少年野球の監督が、ここで勝っても意味がないと思ってくれる方が嬉しいですね。ウチのチームは、高校で身体を壊さないための基礎をしっかり教えているんだって言える方がカッコイイですよ」


磐田の野球少年がケガをしないで野球を続けてくれることが夢。鈴木は大きな目を少年のように輝かせた。

 

自分の夢を鈴木は地味だと言う。確かに名選手をサポートする煌びやかな現場と比べれば派手さはないかも知れない。しかし、彼の思い描く夢が実現した時、野球を取り巻く環境は確実に変わる。その日を夢見て、鈴木平は今日も野球少年たちに厳しくも温かいアドバイスを送っている。

 

取材/渡辺トモヒロ 文・構成/三浦敬介

 

 

 

 

プロフィール

写真 鈴木平
1970年静岡県生まれ。1988年プロ野球ドラフト3位でヤクルト入団その後オリックス、中日ドラゴンズ、ダイエ―に移籍プロ野球在籍15年、引退後神戸東洋医療学院にて3年間勉強、また神戸市内の石田カイロプラクティックオフィスにて3年間技術の勉強をして平成18年2月に国家試験に合格。著書に『プロ直伝!! 野球ひじ・野球肩の治し方と予防法』(監修)がある。
施設写真
タイラ治療院
静岡県磐田市城之崎4-11-2
TEL 0538-37-8989
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