新町お灸堂のすきさんこと鋤柄誉啓さんが「気になる人」と言葉を重ねて知見を深める連載対談がスタート。第一回のゲストは雑木林の開墾がてら養生を語る動画配信(ぴーてんのゆるい生活/Youtube)や、パンダのイラストを添えた老子の言葉(毎日老子/Twitter)等、ユニークなコンテンツで広く中医学の魅力を発信する漢方家のぴーてんこと中神洋和さん。お灸と漢方の話はもちろん、デザインや情報の発信などなど広くゆる~く、あれこれと語りあって頂きました。

妻からは「働け!」「畑にいるな!」ってよく言われます(中神)

鋤柄:ぴーてんさんとは初対面なんですけど、ZOOM越しで拝見してもすごくいい顔つきをされてますよね。僕はイケメンとかではなくて、いい顔の人と仕事がしたいと常々思ってまして、こうやってお会いできてすごい嬉しいです。

中神:すきさんのツイッターはずっと拝見してますよ。正直言ってデザインが図抜けているの一言で。漢方関係の友人に今回の対談の話をしたら、みんな注目していました。ところで僕は昨年、東京から愛知に帰ってきたんですけど、すきさんも同じ地元でしたっけ?

鋤柄:生まれは愛知県岡崎市です。学生の頃は京都の鍼灸学校に通っていました。途中、紆余曲折もありながら、現在は独立して京都でお灸の治療院をやっています。

ひたすらに土を掘り続け、遂にレンガの釜戸が完成!中神:僕も最初は鍼灸でした。整体師の学校を出て、接骨院で働きながら鍼灸師の資格を取って、十年間は鍼を打っていましたね。漢方に転向したのは二十八歳の頃です。お店を建てるつもりで愛知に帰ってきたんですけど、コロナがこんな状況なので、現在はパソコンを通じて漢方相談をしています。あとは畑いじり。いい土が出るので陶芸でもやろうかと思っています。

鋤柄:ぴーてんさんは普通に話されていますけど、実はすごいことですよね。開業をするつもりで帰ってきて、それが出来なかったら失敗と捉える人もいるだろうし。僕だって去年より売上が落ちていたら、それなりに不安になる。自分のサイズ感で状況に照らして「今はこれで十分でしょ」って達観できる人は、なかなかいない。

中神:妻からは「働け!」「畑にいるな!」ってよく言われます(笑)。僕は極論派の人間で、仮に収入がゼロになっても実質的に生きていけるよねって、どこかで考えているんです。最悪、魚を獲ればいいし、山の中だって生活できるって、本気で思ってしまう。それに通ずる話なんですけど、接骨院を辞めた日にパラオに行きたいと思って、その日に航空券を取って、次の日パラオに飛びました。何のアテもなく、英語もまったく喋れないのに(笑)。

鋤柄:えっ、パラオですか!? 何でまた?

中神:民族の本とかを読んでいると好奇心が湧いてきちゃって。この人たちはどんな衣装を着て、どんな食事をしているのか、とか。到着した場所はスラム街みたいなところで、周りは外人だらけ、もちろん日本語は通用しない。でも、話せなかったら?なんて考えなかったし、今でも考えられないです。タイのカレン族にも会いに行ったことがあります。内戦地帯でみんなライフルとか持っているような場所。「怖くないの?」って、よく聞かれるんですけど全然怖いとは感じないですね。先の心配をしたことがない。ヤバいですよね(笑)。

鋤柄:かなりヤバイですね(笑)。

漢方の人は手札となる飛び道具がメチャクチャ多い(鋤柄)

中神:最初に話したように、僕の中ですきさんといえばツイッターのインパクトが強いんです。情報のデザイン性をかなり考えて発信されていますよね。

お灸をわかりやすくデザインすることで裾野は広がっていく鋤柄:それに関してはデザインを「いくら何でもやらなさすぎだろ」っていう人があまりにも多いと感じているんです。僕よりも治療が上手で賢い人なんて、それこそ数えきれないくらいたくさんいます。その前提でデザインをするのが是だとは思っていないですけど、そうじゃないにしても、その人が伝えたい想いが少しでもあるなら、どうしてそれを最適な行動(カタチ)にしないのだろうとは思います。何かしらの目的って、あるじゃないですか。集客だったり、啓蒙だったり、場合によっては息抜きだったり。「普段できていますよね?」ってことが、なぜかSNS上ではできていなかったりするなぁと。

中神:すきさんは〝だとしたら、どうするか?〟って部分で、ロジックを組み立てられる人だと思うんです。「なんでフォロワーを伸ばしたいの?」「集客を伸ばしたいから」「ならデザインはこう!」みたいな。

鋤柄:単純に旨い寿司を握っているだけが幸せな人なら、目の前の人のために握ればいいと思うんですけど、より多くの人に旨い寿司を食べてもらいたいなら、それを伝えるところまで努力をしなければいけないと思うんです。自分の仕事に自信と自負があって、より広く深く浸透させたいと考えるのなら、相応のデザインが無いのはどこか歯痒い気がします。

コロナ以降、漢方家の方々のツイッターを見ると、一般ユーザーに対して間口の作り方が上手に感じられました。発信する上で意識している点はありますか?

中神:僕がツイッターとかSNSのマーケティングを意識し始めたのは2017年頃です。ただ、漢方の小難しい話を140文字の中で表現しても、一般の方にはなかなか理解してもらえないんですよね。最終的な目標は自分のお店や他の漢方薬局に行ってもらうことなので、初心者にも分かりやすく、興味を持ってもらえるような情報発信を心掛けていますね。

鋤柄:鍼灸師の場合は基本的には患者さんと触れ合う仕事で、言語化できない部分の凄み、良さみに依存してきた歴史があると思うんです。だから文字にした時の〝手札〟が意外と少ない。一方で、薬局は一瞬すれ違って話す間にどれだけのことができるかという発想になると思うんです。だから手札となる飛び道具がメチャクチャ多いんです。個々の知恵のボリュームも会社として蓄積されたデータ量も僕らとは段違いですから。鍼灸が近距離戦なのに対して漢方は遠距離戦がめちゃくちゃ得意なんだと思います。

中神:言われてみれば、確かにそうかも。鍼灸から漢方に移った時、薬局で働いている人間の言葉のスペックに驚きました。ワードセンスに優れている人が多いので、ツイッター向きかもしれませんね。

鋤柄:僕はその辺を参考しながらSNSを始めたんです。今から五年前くらいですかね。フェイスブックとインスタは出足こそ好調でしたが、気が付いたら拡散されにくい構図が出来上がっていて、これは雰囲気良くないなって(笑)。それでツイッターを去年一月から本腰を入れてスタートさせました。僕は鍼灸みたいなものにもう少し可能性を感じているのですけど、結局のところ素材が悪いのか腕が悪いのかよくわかないなという課題を感じていて。一度本気で料理に取り組んでみようと思いました。ぴーてんさんをはじめ、上手な先生方の文章の癖を盗んでいます(笑)。

鍼灸と漢方の喋りはまったくの別物です(中神)

最近ではオンライン指導を行う鍼灸師、漢方家の方々が増えています。ニーズの拡大、社会環境の移り変わりを受けて、仕事の向き合い方に変化はありましたか?

中神:漢方の場合、実はオンラインでも対面でも、やっていることってあんまり変わんないんです。脈を見られないとかはありますが、お互いの顔を見て会話する点は一緒なので、カルテや諸々を拝見してとなると、結局、薬局とやってることは変わらないんですよね。なので、オンライン上でのやりにくさはまったく感じていません。

鍼灸と漢方とで患者さんに対する、コミュニケーションの違いってあるのでしょうか。

中神:過去の経験から言うと、鍼灸院とか接骨院に来られる患者さんは症状に差こそあれ、割と明るい方が多い印象です。その明るさをもっと増幅させてあげるために、楽しい話で相手を笑わすことを心掛けていました。漢方薬局は相談中に泣いてしまう患者さんもいるので、こちらから話すのではなく、患者さんの方から話してもらうんです。相手の気持ちに寄り添うことに重点を置いています。

鋤柄:僕が対話を意識し始めたのは独立してからです。はじめは喋り方の研究をしていましたが、どうにも上手くいかなかった。それで聞き方とか調査の方にスライドしていきました。つまり、何を喋るかじゃなくて、何を聞けるか。治療や集患は相手の状況を掴まないと始まらないし、次にも繋がらないですから。そこはトレーニングしたことだと思いますね。

中神:僕も初めは喋り方の研究をしていました。でもダメだなとなって。患者さんが帰る時の感覚で分かるじゃないですか。手応えないなとか、次は来てくれないだろうなとか。そうしているうちに喋ることが八方塞がりになってしまった。それで話を聞く方に徹するようになりました。一度つまずいたら自分の中で研究しなきゃダメです。チャンスくらいに思わないと。

鋤柄:なんでもそうですけど、やり方がいつも変わる人は絶対に成長しないと思います。そのやり方で合わなかったら違うってことが理解できるけど、色々なところからちょっとだけ摘んでしまうと、良い結果が出てもそれが必然か偶然か分からなくなる。一度は同じやり方を継続して経験を積むことは重要なのではと思います。

『【お灸堂すきから見聞録】第一話 漢方を伝える人、ぴーてんさんに会いに行く(後編)』はこちら→