お灸を使用する上で、一番ネックになるのが煙と匂い。特に個人宅やレンタルルームを利用する出張鍼灸では気を遣う場面が多く、施術の幅も狭まりがちです。セイリン株式会社から発売されているセラミック電気温灸器は、鍼灸師がこれまで〝常識〟として向き合ってきた悩みに応える画期的なアイテム。「メンタルヘルスの不調にも優れた効果を発揮します」と語る船水先生に、商品の第一印象から具体的な施術方法まで幅広く、お話を伺いました。


最大の魅力は〝点と面〟で施術ができる点ですね

セラミック電気温灸器を手にした第一印象はいかがでしたか?




僕はメカニカルな雰囲気は嫌いじゃないので、とても好感を持ちました。全体的になめらかな曲線で設計されているので握りがいいですよね。フォルムも横から眺めると鳥みたいで可愛いですし。先端はセラミック製ですので金属のような急激な温度上昇が起こらず、体にも優しい。プロフェッショナルが使う分には火傷の心配もまずないでしょう。先端で突く施術と三角面で撫でる施術ができる点も一挙両得です。

なんと言っても世界の村田製作所が製造しているわけですから、メイドインジャパンの叡智が詰まった安全性の高い商品だと思います。初めから抵抗なく「これは使える」と感じました。欲を言えば、カラーバリエーションにピンクとかオレンジがあったら、もっと可愛らしいかな(笑)。温灸として使うわけですから、イメージからも離れていないはずです。あくまで、僕個人の好みですが(笑)。

セラミック電気温灸器の魅力はズバリどこでしょう?

商品コンセプトにもある通り、火を使わず、煙が発生しない利点は大きいです。私は出張治療が多いのですが、患者様には煙の香りを敬遠される方もいますし、喘息などの呼吸器疾患の既往歴があれば煙自体が好ましくありません。カーテンや壁の汚れを気にする必要もないので、幅広いシチュエーションで施術できます。先端温度を43~55度まで5段階で調整可能な点も、部位によって細かい使い分けができて便利ですね。

基本的には50度前後で使用しますが、足裏は温度を感じにくいのでMAXに設定しています。冷え性には湧泉や失眠を撫でるように流し、爪の両端(井穴)は突くように刺激を与えることで徐々に足全体が温まっていき、患者様がお帰りになる頃には靴の中全体がポカポカになります。かく言う私も足元が冷えやすいので、自分の足にもセラミック電気温灸器を使っていますよ。一定の熱を保ちながら〝点と面〟で施術できることが最大の魅力ではないでしょうか。

先生はてい鍼を施術の中心に置かれていますが、セラミック電気温灸器をてい鍼として使おうと考えたきっかけは何だったのですか?

以前から〝温かいてい鍼〟が欲しいと考えていたのです。ホットストーンは使用していますが、冷めてしまったら温め直す必要があるので、出張先でその都度、電子レンジをお借りするのは心苦しいですよね。風邪や冷え性が原因の生理痛や下痢といった症状にはお灸が効果的ですが、女性の患者様はもぐさの色素が肌に付着することや、火傷を心配される方もいます。こうしたジレンマを解消できるアイテムはないかと探していたので、試用してすぐに、これはいいなと。それからずっと愛用しています。

お灸は熱が垂直方向に伝わっていくため浸透はしますが、一箇所ずつ据えると、どうしても時間がかかります。その点、セラミック電気温灸器は経絡に沿ってローラーのように熱を走らせることができるので、最短かつ最大の効果を期待できると考えています。背中だったら督脈や膀胱経、体の表面なら任脈やいくつかの陰経を一遍に温めることができるので、施術中にリラックスされて、ぐっすり眠られる患者様も多いですよ。

精神疾患は〝刺さない鍼〟の治療が効果的です

メンタルヘルスの不調の病で悩まれている患者様を数多く治療されていますが、ココロの病の治療とセラミック電気温灸器の相性について教えてください。




ココロの病の治療にセラミック電気温灸器は非常に効果的だと思います。うつ病の患者様は一般的に神経が敏感になられているので、鍼で刺す行為に恐怖を感じる方が非常に多いんです。お灸についても同様の理由から火傷を大変心配されます。ですから刺さないけど、適度に温かくてリラックスできる電気温灸器はピッタリなんですよ。鍼で刺すという行為は、強い肩こりや筋肉痛など、筋肉系疾患のアプローチには有効的です。

一方、てい鍼やセラミック電気温灸器は、通常の鍼に比べると刺激が少なく緩やかに効果が訪れます。ただ、ゆっくりとした回復が望ましい病もあって、それがうつ病や自律神経失調症といった精神疾患なんです。激しい運動の翌日は動けないのと一緒で、急激にパワーチャージすると反動が大きくて、結果的にさらに弱ってしまう。精神疾患は一朝一夕には治りませんので、段階的な回復が求められます。そのためには〝刺さない鍼〟で患者様の状態に適した治療をすることが重要だと考えています。

精神疾患に対しては、どのような部位に治療を行うのでしょう?

基本的には、まず腹部中心の治療を行います。その後に手足、背部・頭部と進めていきます。東洋医学では消化器を整えることで、こころと身体の調子の基礎を整えることが来ます。胃袋や小腸、大腸等の消化器系を治療していくと、食欲が湧いて栄養をチャージできる体へと戻っていくわけです。人間を木に例えるとボディーは木の幹、頭と手足は根っこと枝や葉っぱ、花にあたります。しかし、花の調子が悪いからと言って花のみの治療をしても根本解決にはなりません。花の治療と同時に幹や枝、根っこの治療が必要なのです。つまり、部分の治療ではなく全体の治療をしていくことが大切なのです。腹部から手首の内側、足首の内側、背骨本体、背骨の両脇——この辺りを重点的に治療することで、不眠症や体全体のダルさが改善されていきます。機械の性質上、セラミック電気温灸器は顔から上は使用できないので、頭部はてい鍼による治療を行っています。

コロナ禍以降、自律神経失調症が急増しています

昨年から今年にかけて、心に負担を抱える方が増加傾向にあると度々報道されていますが、治療家のお立場から見ていかがですか?

世界がコロナ禍と呼ばれる状況に入ってから、自律神経失調症を発症される方がもの凄い勢いで増えている印象です。仕事を例に取ってみると、テレワークが増えて自宅にいる時間が長くなると、日光を浴びづらくなります。

日光は精神を安定させる上でとても重要な神経伝達物質・セロトニンの分泌を促しますので、ただでさえコロナで心が弱っている状態で自宅に引きこもってしまうと、やがてうつ病を引き起こしやすくなります。自律神経失調症やうつ病では、頭痛、肩こり、腰痛の症状のいずれかが間違いなく表れますから、肩こりを訴えていても、肉体的な原因によるものではなく、ストレス性に起因しているケースは非常に多いのです。

こうした症状を改善するためには、体を温めることが基本です。精神疾患の患者様は体の熱が移動していたり少なくなっていたりしていて、陰陽のバランスが崩れている状態にあります。交感神経と副交感神経が正常に働いていないため、顔はのぼせたように赤くなっているのに、手足は冷たいなんてことが自律神経失調症ではよく見られるのです。これは血管の拡張と収縮が上手に機能せず、全身に血が巡っていないことを意味しています。

手足の冷えの改善には血管を拡張させる必要がありますので、セラミック電気温灸器を使って、手足の指先を軽く叩きにながら熱を体内に入れていきます。体表面から血管を温めることで脳への血流も良くなりますし、何より叩く刺激と熱の刺激を同時に与えられるのはセラミック電気温灸器の大きな利点です。本来のお灸の代用だけではなく、心の病にもトライアルできる点で大きな可能性を秘めた商品だと思います。