「100キロ以上歩いたら、身体はどうなるのか?」
自身の身体を使って、そんな試みを行ったのが、鍼灸マッサージ師の関口満氏(はり・きゅう・マッサージ アスケア治療院院長)だ。道中では、定期的に自身の足へ台座灸を行った。場所は、俳人の松尾芭蕉もお灸をしたという足三里である。
一体、どんなお灸の効果が見られたのだろうか。関口氏に取材を行った。

105キロも歩こうと思ったワケ


灸をしながら、ひたすら長距離を歩き続ける――。
関口氏は、そんな「リアル松尾芭蕉」ともいうべき、試みに挑戦。事前に計画を告知して、支援を募り、道中はSNSで実況するというユニークな試みで注目を集めた。
「きっかけは、2019年11月に、東京エクストリームウォーク100という大会に出場したことです。26時間以内に小田原から東京までの100kmを歩くというイベントで、意外と歩けるな、と思ったんです」
それ以降、ウォーキングを習慣に取り入れたという関口氏。2020年9月にツイッターの企画として46.4キロのウォーキングを決行。その反響を受けて、11月に105キロのウォーキングに挑戦することになった。
ただ単にSNSで注目を集めたかっただけではない。関口氏は、鍼灸マッサージ院を開業して5年目を迎える。日々、患者に鍼灸マッサージと運動指導を行うなかで、一つの思いが頭をもたげた。
「ちょうど40歳を迎えたのですが、私自身が幸いなことに健康で、大きな病気もなく、ここまで来ました。そのため、鍼灸マッサージの効果を、患者さんの身体の変化でしか体験したことがなかったんです。自分も実体験として、その効果を感じられれば、患者さんにより適したアドバイスをできるのではないかと思いついたんです」
自身の身体で治療の効果を実感したい。そう考えた関口氏は、105キロにも及ぶウォーキングで身体の極限状態に追い込んだうえで、その最中にセルフケアを行い、身体の変化を体感することにした。
関口氏が選んだケアの方法は、お灸である。その場で手軽にできて、実践しやすい。移動しながら用いるには、ぴったりだろう。
事前に提供された「台座灸irodori AKANE」を持参して、関口氏は2020年11月28日~29日にかけて、御殿場から渋谷ハチ公前までの105kmを、仲間と2人でウォーキングの旅に出かけることとなった。

スタート前は印堂への灸で頭スッキリ


前日は、静岡県の御殿場駅近くのキャビンルームに宿泊。当日の朝、起きてすぐに、ホテルの部屋で台座灸を行った。場所は印堂。眉間の中央部にあるツボだ。
「印堂は気持ちを盛り上げたいときに、お灸を据えると効果的です。朝の目覚ましにもなるので、スタートの朝に行いました。irodori AKANEは接着がよく落下しにくいので、顔のツボにも使いやすいですね」
出発前で体調は万全とあって、お灸の前後で目に見えた変化は感じなかったようだ。新橋浅間神社で旅の無事を祈り、関口氏は仲間と2人で、6時30分にスタートを切った。長い旅路の始まりである。

道中は、定期的に足の三里への台座灸を行うことにした。灸によるセルフケアは、これまでの関口氏が行ったウォーキング企画にはなかった試みである。どれほどお灸が役立つのかは未知数である。
長距離ウォーキングのコツは、とにかく正しい姿勢で歩くこと。殿筋、背筋、腹筋と大きな筋肉をしっかり使って歩けば、小さい筋肉の疲労を予防できる。トレーナー経験も豊富な関口氏。正しく筋肉を使った運動は熟知している。
「体育大学を卒業してから、いったんはスポーツクラブに就職しました。トレーニング指導をしているうちに、痛みで運動ができない人が多いことを知って、治療家への道に進むことを決意しました。いかに怪我をせずに運動を続けるか。姿勢を重視して、治療院では患者さんに指導しています」
だが、どれだけ正しい姿勢で気をつけて歩いたとしても、100キロはあまりにも長い。1年前に大会には出たことがあるとはいえ、自ら決めたルートで、たった一人の同行者で歩く状況とは大きく異なる。
50キロを超えたあたりから、いよいよ身体が疲労して歩みが遅くなってくる。それでもまだ残り半分。正念場を迎えるにあたって、関口氏は持参した台座灸の効果を実感することになった。

『現代の松尾芭蕉!?足三里に灸をしながら、105キロウォーキングに挑戦(後編)』はこちら→