ハリトヒト。のメンバーが、お灸メーカーに商品の開発について訊くキュウトヒト。第三弾。
鍼灸師と柔整師の資格を持つ2代目の斉藤社長と、ものづくりへのこだわりを持つ職人気質の先代。
親子で作り上げた「大和漢」という会社の創業秘話を伺いました。
平成5年設立の新しいお灸メーカーが、自社製品に込めた熱い想いとは…。

職人気質の創業者と臨床家の2代目

「大和漢」について、いろいろ教えてください。

齊藤社長:まずは自己紹介をいたしますと、実は私も鍼灸師なんですよ。
高校を卒業してすぐに専門学校に行って、鍼灸の資格を取りました。森ノ宮医療学園専門学校が、大阪鍼灸専門学校と呼ばれていたころの卒業生です。その後、森ノ宮医療学園と名前を変えて柔整科ができたので、柔整の資格も取りました。
自分の話になってしまいますが、私は脳卒中の後遺症への鍼灸治療がしたかったんです。
鍼灸と柔整の資格を取ったあと中国に留学をして、華山医院(上海)、龍華医院(上海)、天津中医薬大学第一附属医院(天津)にて合計3年間、実習生として現場で鍼灸を学びました。
あるとき、自分は鍼灸師として臨床を続けていくのは、厳しいのではないかと感じてしまった瞬間があったんです…。そう思って、白衣を着ることを辞めて、父の創った大和漢を継ぐことにしました。

大和漢は、お父様が創業なさった会社なんですか。

齊藤社長:私が高校生の時に「鍼灸の道に進みたい」と言ったことで、初めて父が鍼灸業界の存在を知り、そこから大和漢という会社が出来上がりました。
平成5年に創立して今年で28年目です。お灸メーカーの中では、とても若い会社だと思います。
父は大和漢を創立する前、スチール家具の製造販売の会社をやっていて、事務所のロッカーとか事務机や棚などを作っていました。ですので、もともとはものづくりの出身です。
私が鍼灸の話を父に伝えて、そこから鍼灸用品作りがスタートしました。

鍼灸師である齊藤さんの目線と、先代のものづくりへの想いが大和漢を作っているんですね。

台座灸 柔―鍼の響きをお灸で表現することへの挑戦

お灸の特徴を教えてください。

齊藤社長:大和漢の商品は台座灸の「柔(やわら)」と、紙筒型間接灸の「達磨(だるま)」から始まりました。
正直に申し上げまして、メーカーの先輩方がいらっしゃるので、形は見様見真似です。
私は鍼灸師でもありますので、お灸の本質はやっぱり手で捻るところにあると思います。ですが、今の時代、患者さんの皮膚にヤケドをさせてしまうことは、非常にリスクになってしまうと思います。いかにヤケドをさせないで、高い効果を出すか…という部分にとても知恵をしぼりました。
そこで、お灸の熱の伝わり方というのをすごく研究しました。「柔」は台座の上にお灸が乗っていて、通気口を通じて、お灸のヨモギの熱がいきます。そのときに鍼で言う「響き」のようなものを出せないか、と考えました。モグサでお灸の「響き」を出したいと思ったんです。

お灸を響かせるという発想から、柔が生まれたんですね。

齊藤社長:物が燃えて火が消えていくとき、温度は山なりに上昇してトップを迎えて落ちる。これが普通の現象です。そんな中で、火をつけて温度が徐々に上がっていったあと、最高温度を1分間持続させるには、どうしたらいいかを考えました。最高温度が保たれるということは、ツボに対して熱が入る時間が長くなるということですよね。与えたい場所に、与えたい熱量をどう与えるかということを考えて作られた商品です。

最高温度を持続させるためには、どんな工夫をされたんですか。

齊藤社長:ヨモギの巻き方の圧力に、だいぶこだわりました。カチンコチンにすれば良いというわけではなく、フワフワにすれば淡白なお灸になります。その密度でだいぶ変わります。
弊社の「柔」は、台座とお灸の間にドーナツ型にのりが付いています。見た目は少し汚いんですけど、通気口を塞がないために、わざと表面に糊を巻いているんです。これによって、熱の温度を一定に保てるようにしています。
台座灸の形は他社さんのものと、ぱっと見ると一緒だと思います。ただ商品の中身は違うというのは、分かって頂きたいと思っております。

鍼灸師としての経験が、製品の開発に活かされていることを感じました。

前編 終わり